大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)2121号 判決
一 原告がイ号物件を業として製造、販売していること、被告が本件実用新案権を有していること及び被告が右権利に基づき原告に対し請求の趣旨第一項記載の差止請求権を有すると主張して争つていることは当事者間に争いがない。
二1 本件実用新案権の本件明細書記載の実用新案登録請求の範囲(補正後のもの)が抗弁2(一)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、右記載及び成立に争いのない甲第一号証(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は抗弁2(二)記載のとおり分説するのが相当である(右分説については当事者間に争いがない。)。
2 右甲第一号証及び成立に争いのない甲第二号証(本件公報の訂正公報)によれば、本件考案の作用効果は、次の作用効果(D)を追加するほかは、抗弁2(三)記載のとおりであると認められる。
(D) ヘツダの開口部側端縁である下端縁をフイルムと溶着して該仕切用溶着部より開口部側、すなわち下方側の台紙と表フイルム部間を商品装入用空室としているので、前記空室に装入した商品が包装袋のヘツダ側に移動したりすることはなく、これにより見映えが悪くなつたりすることがない。
三1 イ号物件の構成が抗弁4(一)記載のとおり分説されること並びにイ号物件の構成(1)ないし(5)、(7)及び(8)がそれぞれ本件考案の構成要件(1)ないし(5)、(7)及び(8)を充足することは、当事者間に争いがない。
2 そこで、イ号物件の構成(6)と本件考案の構成要件(6)を比較すると、ヘツダの下端縁が、イ号物件においては表フイルム部と裏フイルム部の双方に溶着されているのに対し、本件考案においては表フイルム部にのみ溶着されている。
3(一) 被告は、この点について、イ号物件の構成(6)は、ヘツダの下端縁を表フイルム部3と全幅にわたつて溶着することで仕切用溶着部9を形成していることで本件考案の構成要件(6)を具備している上に、「ヘツダの下端縁を裏フイルム部4と全幅にわたつて溶着することで仕切用溶着部9aを形成する。」という要件を別途付加したものである旨主張する。
(二) しかしながら、本件考案の構成要件(6)にいう「表フイルム部にのみ……溶着する」とは、その文言解釈上、表フイルム部以外の部分は溶着しない、すなわち裏フイルム部は溶着しないことを意味することは明らかであるし、本件考案の作用効果(B)は、裏フイルム部を溶着しないことによつて奏される作用効果である。
してみると、本件考案の構成要件(6)は、裏フイルム部は溶着しないことを要件としているものというべきであるから、表フイルム部と裏フイルム部の双方を溶着しているイ号物件は同構成要件を備えておらず、被告の主張する、「構成要件(6)を具備した上で、裏フイルム部を溶着するとの要件を付加する。」という命題はそれ自体背理であるから、この点に関する被告の主張は理由がない。
4(一) かくしてイ号物件は本件考案の構成要件(6)を備えず、したがつてまた同構成要件に基づく作用効果(B)をも奏しないのであるが、被告は、同構成要件が比較的重要度の低い要件であること等を理由として不完全利用論を主張するので検討する。
(二) そもそも発明や考案の各構成要件の間に軽重の差を設けることができるか否かということ自体問題の存するところであるが、本件の場合は、前記甲第一、第二号証、いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、第二号証の一、第三、第四号証によれば、本件考案については、出願公告後の昭和五九年一一月五日訴外藤本藤太郎から、出願前頒布された刊行物や周知技術を組み合わせることにより極めて容易に推考しうるものであるとの理由で登録異議の申立がなされたのに対し、昭和六〇年六月一〇日付で原告の反論1記載のとおりの自発補正がなされたことが認められるところ、右補正は、本件考案の構成要件(6)につき単に「のみ」という言葉を挿入しただけではなく、右補正後の構成要件(6)の奏する作用効果についても本件考案の詳細な説明として詳細に記載するものである(のみならず、右補正後の構成要件(6)の奏する作用効果そのものについてはすでに右補正前の本件考案の詳細な説明においても、右補正後ほど詳細ではないにせよ、その記載があつたものである(本件公報4欄23~31行参照))。したがつて、本件考案の構成要件(6)が重要度の低い要件だなどということはできない。
(三) この点につき、被告は、右異議申立を退けた登録異議決定を引用して、本件実用新案権が登録されたのは、「商品包装袋の表面部分を形成する表裏フイルム部間に、合成紙又は厚手の合成樹脂フイルムから成り且つ裏フイルム部と上下方向長さが略同一とされた台紙を挟込んだ点」(構成要件(1)に相当する。)に新規性・進歩性が認められ、これにより奏される「袋体は全体として保形性に優れ、一枚の台紙の上部がヘツダとなるため、新たな構成材を追加することなく、ヘツダを容易に形成できるという明細書記載の効果」(作用効果(A)に相当する。)が従来例にない特有の作用効果であると認められたためであるから、補正によつて追加された「のみ」の要件(構成要件(6))は重要度が低い副次的要件にすぎないことが客観的に明らかであると主張する。
しかし、右登録異議決定が本件考案の構成要件(6)及びそれの奏する作用効果について触れていないからといつて、同決定が右構成要件(6)を重要度の低い副次的要件にすぎないとみていたとは、直ちには断ずることができない。
他に本件考案の構成要件(6)が本件考案の新規性・進歩性とは無関係な、重要度の低い副次的な要件であることを認めうる証拠はない。
(四) 被告は、また、原告が被告の行き過ぎた無意味な補正をしたという落ち度につけ込んで本件実用新案権を潜脱しようとしているとも主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠もない。
(五) そうだとすると、被告主張の不完全利用論は、一般論として不完全利用論を認めるか否かはさておき仮に認めるという立場をとる場合でも、その前提を欠き、失当なものといわざるを得ない。
5 したがつて、原告の製造、販売するイ号物件は、本件考案の技術的範囲には属さず、被告の有する本件実用新案権を侵害するものとはいえない。
四 以上のとおりであつて、被告は本件実用新案権に基づいて原告に対しイ号物件の製造、販売の差止を求める権利を有しないところ、被告がこれを争つていることは前記のとおりであるから、右差止請求権の不存在確認を求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容する。
〔編註〕本件における抗弁は左のとおりである。
1 被告は、商品包装袋につき、登録番号第一六三五〇一二号の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
2(一) 本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)記載の実用新案登録請求の範囲(出願公告後実用新案法一三条で準用する特許法六四条の規定に基づく後記補正のされたもの)は、次のとおりである。
「薄手の合成樹脂フイルムを、上端部が折曲部となるように折曲重合して、このフイルムの表裏フイルム部間に、合成紙又は厚手の合成樹脂フイルムから成り且つ裏フイルム部と上下方向長さが略同一とされた台紙を挟込み、表裏フイルム部の両側端縁と台紙の両側端とを溶着すると共に、裏フイルム部の下端部と台紙の下端縁とを溶着することで、台紙の下端縁と表フイルム部間が開口部とされた袋体を形成し、台紙の上部をヘツダとし、ヘツダの下端縁を表フイルム部にのみ全幅にわたつて溶着することで仕切用溶着部を形成して、該仕切用溶着部より下方側の表フイルム部と台紙間を商品装入用空室とし、表フイルム部を台紙の下端縁よりも延長して、該延長部分を、開口部を封緘する封口片部としたことを特徴とする商品包装袋。」
(二) 本件考案の構成要件は次のとおり分説される。
(1) 薄手の合成樹脂フイルム2を、上端部が折曲部となるように折曲重合して、このフイルムの表裏フイルム部3、4間に、合成紙又は厚手の合成樹脂フイルムからなり、かつ裏フイルム部4と上下方向長さがほぼ同一とされた台紙5を挟み込み、
(2) 表裏フイルム部3、4の両側端縁と台紙5の両側端縁とを溶着し、
(3) 裏フイルム部4の下端縁と台紙5の下端縁とを溶着8してなり、
(4) 台紙5の下端縁と表フイルム部3間が開口部6とされた袋体を形成し、
(5) 台紙5の上部をヘツダ7とし、
(6) ヘツダ7の下端縁を表フイルム部3にのみ全幅にわたつて溶着9することで仕切用溶着部9を形成して、
(7) 該仕切用溶着部9より下方側の表フイルム部3と台紙5間を商品装入用空室10とし、
(8) 表フイルム部3を台紙5の下端縁よりも延長して、該延長部分を開口部を封緘する封口片部12としたことを、
特徴とする商品包装袋1。
(三) 本件考案の作用効果は次のとおりである。
(A) 商品包装袋の表面部分を形成する表裏フイルム部間に、合成紙又は厚手の合成樹脂フイルムからなり、かつ裏フイルム部と上下方向長さがほぼ同一とされた台紙を挟み込んでいるので、袋体は全体として保形性に優れ、一枚の台紙の上部がヘツダとなるため、新たな構成材を追加することなく、ヘツダを容易に形成できる。
(B) 表フイルム部のみヘツダの下端縁に溶着することにしているので、仕切用溶着部の形成時に、袋体の上下に溶着ローラを配置する必要がなく、仕切用溶着部の形成を容易に行える。又、一般に、商品の説明等の細かい印刷は、袋体内の商品が見にくくなるのを避けるために、表フイルム部ではなく、裏フイルム部に施すが、本件考案では、ヘツダの下端縁と裏フイルム部とは溶着されておらず、裏フイルム部の上下方向中途部に、幅方向の溶着部がないので、裏フイルム部のほぼ全面にわたつて細かい印刷を施すこともできる。
(C) 裏フイルム部の下端縁と台紙の下端縁とを溶着したので、商品の自動包装機により、自動的に、袋体内に商品を挿入して、袋体を封緘する場合において、誤つて、商品が裏フイルム部と台紙間に挿入されるというおそれは全くなく、商品の自動包装を良好に行える。
3 原告は、別紙物件目録記載の包装用袋(以下、「イ号物件」という。)を業として製造、販売している。
4(一) イ号物件の構成は次のとおり分説される。
(1) 薄手の合成樹脂フイルム2を、上端部が折曲部となるように折曲重合して、このフイルムの表裏フイルム部3、4間に、合成紙からなり、かつ裏フイルム部と上下方向長さがほぼ同一とされた台紙5が挟み込まれている、
(2) 表裏フイルム部3、4の両側端縁と台紙5の両側端とが溶着されている、
(3) 裏フイルム部4の下端部と台紙5の下端縁とが溶着8されている、
(4) 台紙5の下端縁と表フイルム部3間に開口部6が形成されている、
(5) 台紙5の上部をヘツダ7としてなる、
(6) ヘツダ7の下端縁を表裏フイルム部3、4に全幅にわたつて溶着することで仕切用溶着部9、9aを形成してなる、
(7) 該仕切用溶着部9、9aより下方側の表フイルム部3と台紙5間を商品装入用空室10としてなる、
(8) 表フイルム部3を台紙5の下端縁よりも延長して、該延長部分を開口部を封緘する封口片部12として形成してなる包装袋。
(二) イ号物件は、本件考案の作用効果のうち、(B)を除く全ての作用効果を奏する。
(以下省略)